人生を劇場にしない

ヴァイオリン経験皆無の親が、迷走しながら長女を導く軌跡

大人は全員が言動一致か

長女の誕生日プレゼントに、プリキュアのおもちゃを買い与えました。

 

これがスマホのようなデキでして、突然アニメに出てくるキャラクターからメッセージが入ったり、そのキャラクターと通話もどきのことができたり、ミニゲームで遊べたりと、最近のおもちゃの中ではかなりよく出来ています。子供がハマらないわけがありません。一日何分と決めてやらないと、暇さえあればこのおもちゃに手を出そうとするくらい中毒性があります。

 

この手の電子ギアに目がない長女には危険なアイテムです。義妹(長女にとっては叔母)にスマホを借りると、一日中ゲームをして遊んでいるほど好きなのです。3DSなんて与えたらきっと一日中わき目もふらずに遊び続けることでしょう。

 

私は小学生のころ親に理由もはっきりしないままファミコンを禁止された過去がありまして。その反動からか、一人暮らしをはじめてからはゲーム無しの日常など考えられないほど遊びほうけました。30ちょいまでは新ハードが出れば必ず真っ先に買っていましたし、好きが高じて職にしてしまったほどです。ですので長女の気持ちは理解できるし、できれば「禁止」とは言いたくありません。

 

が、ヴァイオリンのレッスンをしなくなるのだけは別です。これは親が止めてやらないと、子供は簡単に低きに流れます。将来「どうして止めてくれなかったんだ」と言われないためにも、禁止はしないけど制限はしなければなりません。

 

「いいよ、といった時間だけ。おしまい、と言われたら即座にやめること」

 

これをルールとしました。そして、私が小学生のころ、親に隠れてファミコンで遊んでいたのがバレたとき、父親にかなづちで破壊された話を聞かせました。彼女にとっては優しいジイジが、そこまで厳しくて乱暴なことをしたということが信じられなかったらしく、興味津々で話を聞きたがりました。

 

「約束を破ったら仕方ないよね。約束ってのは、遊びたい気持ちを我慢することだから」

 

そう締めて、納得させたつもりだったのです。

 

しかし長女は余計な理屈をつけたがる年齢。ある日の夕飯の途中でトイレに立ち、音を消して遊んでいたのです。気持ちはわかるんですよ。本当に気持ちはわかるんです。でもここで甘い顔をしてはいけないんです。初犯こそ、何がいけなかったのかをキッチリと教えなければならないんです。トイレから出てくるところを待ち構え、おもちゃを取り上げました。長女は「違うの、おなかがいたくてトイレの中で暇だから」と屁理屈をこねようとします。何かとつまらない理由をつけて横道に逃げるのは小者のすること。そう育ってほしくないため、最初から厳しく行きました。

 

「ジイジがパパに怒ってファミコンを壊した話をしたよね。覚えていないの?」

「覚えてるけど、トイレで暇だから」

「『いいよ、と言った時間だけ』というルールを破ったんだよ。壊されても文句は無いよね」

 

長女、真っ青です。そこに妻が追い討ちをかけます。

 

「約束を破った罰です。一週間禁止!」

「でもね、でもね……」

 

まだ屁理屈を重ねようとします。さすがに本気で怒りました。

 

「なら一日中遊んでな! ヴァイオリンもピアノも今後いっさい触れないでいい。もう好きにしなさい!」

 

おもちゃをおいて立ち去り、ご飯の続きを三人(妻、二女とともに)で再開したのですが、長いこと何の物音もしないので、少し心配になって部屋を見に行くことに。すると長女は、部屋の隅でひざを抱えてエグエグと泣きながら座り込んでいました。「どうして泣いているの」と聞いてみると、「悔しい」と言うのです。「何が? 取り上げられたこと?」と言うと「違う。いらない。こんなおもちゃいらない。捨てて」と歯を食いしばって「悔しい、悔しい」と足踏みしながら何か怒りをあらわしていました。

 

これは普通ではないと思い、ちゃんと向き合って話をしてみたところ、どうやら、「約束を守らなかった自分が嫌い」「あんなおもちゃを欲しがった自分が悪いんだ」「もうやらないから捨てて!」ということらしい。極端だなあ、とあきれつつも、生真面目であることもよくわかりました。弾力のない極端さは心に傷を負いやすいといいます。これはちゃんと話をしなければならないと思いました。

 

「もう怒っていないからよく聞いて。あなたが今思い浮かぶ大人の名前、言ってごらん?」

「パパ、ママ、ジイジ、バアバ、●●ちゃんママ、●●ちゃんママ……」

「今20人くらいの大人の名前をあげたね。じゃあ、その大人たちはみんな、約束したことは全部守って、一度も破ったことがないと思う?」

「うん」

「そんなわけないんだよ。みんな絶対に一度は約束を破っているの」

「……ほんと?」

「ほんと。でも、約束を破ると周りが悲しんだり、周りが怒ったり、周りが嫌な気持ちになったりするってことがだんだんわかってきて、だったら約束はちゃんと守るようにしよう、って自分で決めたから大人になったの。だから今あなたの周りにいる大人たちは約束を破らないんだよ」

「そっか」

「おもちゃは一週間禁止。これはあなたが約束を破ったんだから仕方ないよね。でも捨てなくてもいいよ。約束を守るなら、また遊べばいい。おもちゃは悪くないし、これを欲しいと思ったあなたも悪くない。約束を守ることを覚えて。それだけでいいから」

「わかった」

 

それ以降はいつもどおりの長女に戻りました。ヴァイオリンもピアノも、進んで練習しました。

 

昨夜、一緒にふとんで横になっていると、「はやく日曜日にならないかな」というので「なんで?」と聞くと、「おもちゃ、返ってくるから」と。

 

この弾力性があれば、ひとまず心配ないかな、とホッと胸をなでおろしました。




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