人生を劇場にしない

ヴァイオリン経験皆無の親が、迷走しながら長女を導く軌跡

腹をくくったのね?

長女、二女ともにバレエを習わせています。ふたりとも踊ることが大好きでいつも楽しそう。友達とふざけることもありますが、基本的にはマジメに取り組んでいる姉妹とのこと。お教室の先生からとても目をかけていただいています。

 

二女の表現力と拍感について最初に太鼓判を押してくださったのもバレエの先生でした。長女の気質を理解し買ってくださっているのも彼女です。妻は少し年配のこの先生を心から信頼しているようです。

 

長女がヴァイオリンと真剣に向き合うと決めてから、私たち夫婦は経済的・時間的理由からバレエのレッスン回数を減らすことを真っ先に考えました。今までとてもお世話になってきた教室だけに言い出し辛かったのですが、それでも先生を信頼して「回数を減らすというのはアリでしょうか。その場合長女はどのような扱いを受けることになりますでしょうか」と相談したとき、真顔でこんなお話をしてくださいました。

 

「生徒さんたち全員に、あなたたちはどうしてバレエをやっているの? と聞いたことがあるのね。ほとんどの子が『ママに行けといわれたから』とか『お友達と会えるから』とか言うなか、長女ちゃんだけが『ヴァイオリンの演奏に役立つから』と答えたのよ。あの子の中で覚悟は決まっているんだと思う。だから、長女ちゃんがもし『バレエの時間がしんどい。練習に回したい』と言ったら、本当にしんどいんだと思うから、それは一も二もなく信じてあげて」

 

生徒が辞めたりレッスン時間を減らしたりするのはお教室にとって損でしかない。普通であればどうにか続けさせようとすると思うのですが、この先生は違いました。

 

「バレエなんてみんなきっと発表会に出たくて通っているはず。それ以外の基礎練習は大して面白くないと思うの。でも長女ちゃんが発表会に出られなくてもレッスンを受けたいと言ってくれるなら、発表会のための練習の時期は、みんなとは別のメニューを組みます。長女ちゃんのためにレッスンのコマを作ってもいいかもしれない」

 

とまでおっしゃってくださいました。涙なくしては聞けませんでした。長女本人は「そのほかの習い事はやめてもいい。私はヴァイオリンだから」と言ってくれていたので、あとは親が決断するだけの状態が続いてきました。だらだら引き延ばしていたのは私たちだったのです。

 

コンクール、楽器、レッスン費。ヴァイオリンに少なくない出費が続くことを考えると、必ず何かを諦めなければなりません。重い腰をあげ、今年いっぱいでバレエは週に一回に減らしていただき発表会も出ないことを家族として決めました。それを先生にお伝えしたところ、こんなお答えをくださったそうです。

 

「親御さんも腹をくくったのね。長女ちゃんはずっとくくってたわよ」

 

姉妹は本当に素晴らしい先生がたに恵まれています。こういう大人たちに見守っていただき、育てていただき、今の姉妹があるんだと思います。孟母三遷と言いますが、三遷するまでもなく意識の高い先生がたに出会えたのは、妻の努力もありましたが運の良さが大きく手伝ったかもしれません。

 

でも最近、もしかしたらと別の考えが浮かぶことがありました。それは、

 

長女の本気が大人を動かしているのではないか。

 

ということ。

 

眠くてグズグズいいながらもたもたと準備し、ただでさえ貴重な練習時間をつぶしたり、寝起きに泣いて手がつけられなかったり、何度注意しても修正できていなかったりと、本当にまだまだ子どもです。が、やる気は本気で、親が厳しかろうと技術が難しかろうと、次のレッスンまでに「練習したこと」だけは見せ付けてやる、という気概を持っているのは事実。

 

彼女はどんなに厳しい練習のあとでも、最後はケロッと笑っています。練習と日常は別、と気持ちの切り替えができるのでしょう。だからあっさりと腹もくくれたのだと思うのです。

 

長女の本気に、親も突き動かされているのかもしれません。いい加減、腹をくくれよとせっついていたのは、実は長女のほうなのかもしれないな、なんて思う初冬の日のことでした。

 

ではまた。



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