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人生を劇場にしない

ヴァイオリン経験皆無の親が、迷走しながら長女を導く軌跡

蜜蜂と遠雷

ひとりごと

テレビドラマ『カルテット』から目が離せない最近の私ですが、5話で心を打ち抜かれ、6話の最後の最後まで恍惚さえ覚える没頭感を得ていたのに、ラスト5分で「あれ?」と立ち止まっています。あまりの展開に頭がついていきません。

出演者の満島ひかりさんは脚本家の坂元裕二さんとの過去の仕事で「中後半からの展開」について物申したことがあるらしく。もしかしたら私の感じたこの違和感と通ずるものがあるのかもしれないですね。

 

それにしても出演者のみなさん、フィンガリング、ボウイングともに徐々にできてきてません!? 努力されたのはもちろんでしょうけど、恐ろしいまでの勘と運動神経ですね。

 

最近、東洋経済オンラインのこんな記事を読んで、言い知れぬ世知辛さを感じていたのですが、そこに『カルテット』の5話の台詞を想起しました。

 

クラシック奏者(のつもり)のカルテット・ドーナッツホールの4人 。はじめて大きな舞台を得て舞い上がっているところに、突然アニメキャラの衣装を着せられ、設定に応じた台詞、設定に応じたダンスなどを強要され。それでも舞台を成功させようと合せの練習時間を作れるようにプロデューサーに談判しますが、彼は「これから飲み会があるから。飲み会は仕事」と練習を拒否した上に、こう言い放つ。

注文に応えるのは一流の仕事、ベストを尽くすのは二流の仕事、我々のような三流は、明るく楽しくお仕事をすればいいの。

 

そのうえで本番直前に出演者の都合で急遽「弾くふり」をさせられることに。納得のいかない仕事を「明るく楽しい」振りをした4人 。しかしその「楽しくなさそう」な彼らの後姿を見て、プロデューサー風の男はアシスタントディレクターの女性にこう呟く。

志のある三流は、四流だからね。

 

ドラマで見たときはグサグサきたものです。これは手厳しい。しかし痛いほどわかる。過去にも別のテーマでご紹介しましたが、日経ビジネスの記事で日本ヴァイオリンの中澤社長が同じようなことを言っていました。さまざまなコンサートの企画を立ち上げて若手の演奏家に話をふった経緯から、こんなふうに話は続きました。

――若手演奏家にとって、ありがたい環境ができてきた。

中澤:それが、最初は希望者が少なくて…。

――なぜですか?

中澤:原因は「安売り」問題と「挨拶」問題でした。

――具体的に教えてください。

中澤:「安売り」問題は、「コンサートをやるなら、大きなホールでやりたい。小さなイベントスペースでコンサートをやるなんて、自分の演奏を安売りすることになる」と。

――しかし、そもそも演奏を聴いてもらう機会を得る方が大事では?

中澤:そう説明したのですが、最初はなかなか…。それが、ある著名な演奏家が参加してくれたのをきっかけに、次々と申し込みが集まってきました。本当は自分も参加したいと思っていたのだけれど、最初に手を挙げるのはプライドが許さなかった、ということでしょう。

 「挨拶」問題も根は同じです。

 私たちのコンサートでは、出演する演奏家に必ず話をしてもらいます。まず自己紹介、そして演奏する曲についての解説をしてもらうのです。~中略~ しかし、一般のコンサートでは、演奏家はお辞儀はしますが、マイクを持って挨拶したりしない。だから、やりたくない、というわけです。

 

中澤社長は、若手の演奏家たちをこの「志のある三流」に陥る危機から救ってくれた恩人ではないですか? 今後こういう考え方が当たり前な風潮になってくれると、子どもたちにはとてもいい環境で演奏活動ができることになりそうです。

 

そして現実に引き戻りまして。レジの立ち居振る舞いで二流扱いなら、むしろ良いほうなんじゃないかと思いました。音楽の、ひいては芸能の世界では、志を持つこと自体が自分の世間的価値を下げることだってあるのだから。

……なんて考え直して少しスッキリしています。

 

ずいぶん前に読んでいたのですが、記事として残しておこうと思い立ちました。その割には前置きが長いんじゃないかって? いつものことです……。

直木賞受賞作ですからご存知の方も多いでしょうし、読まれた方もたくさんいらっしゃると思います。『蜜蜂と遠雷』面白かったですね! ノンストップで読み続け、あっという間に読了。 

蜜蜂と遠雷

蜜蜂と遠雷

 

 

数日にわたって国際ピアノコンクールを戦い抜く、若者たちの群像劇。若干ステロタイプな“天才たち”の描き方だとは思いますが、作者の作風にマッチした内容で、まるでマンガを読むようにスラスラと脳に話が入り込んできます。

作者は恩田陸さん。名前から男性と思われるかもしれませんが、女性です。「遠野物語」「夜のピクニック」「六番目の小夜子」など、若さそのものをテーマとした物語が多く、そのぶん若い読者をも意識しているのか、平易な言葉遣いにもかかわらずとても読ませる方です。私も大好きで、ほとんどの作品を読んできたのではないでしょうか。

 

本作の評価に「音が文字から伝わってくる、聴こえてくる」というものが多かった気がします。これは10年以上におよぶコンクール取材(ご本人にとっては娯楽かもしれません)と、鍛え抜かれた文章力の賜物ですね。

音楽を演奏する側も同じではないかな、なんて感じました。綿密で深く掘り下げた理解と、鍛えぬいた技術力をもって、曲に挑む。表現というものは根源的には変わらないものなのでしょう。

音楽という土壌で、楽しく笑顔の三流を乗り越え、ベストを尽くす二流を追い抜き、注文に応える一流たらんとしのぎを削る者。そしてそれを見守る周囲の大人たち。彼らの心理交錯はなかなかグッとくるものがあります。今思うと、志のある三流が交っていたらもう少し別の角度からもお話が楽しめたのかもしれませんが、それは恩田さんのカラーではないので別の人に任せたいところですね。

 

おもしろいです。オススメです。

 

ちなみに、音が聴こえてくるマンガというのは比較的あるもので、「のだめカンタービレ」「ピアノの森」「四月は君の嘘」などは代表的ですが、私は特にさそうあきらさんを推したい。

マエストロ : 1 (アクションコミックス)

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神童 : 1 (アクションコミックス)

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姉妹にはちょっと刺激の強い描写もあるので見せてはいません
が、エンターテインメントとして秀逸の作品はいつか必ず見せてやりたいな

 

ではまた。