人生を劇場にしない

ヴァイオリン経験皆無の親が、迷走しながら長女を導く軌跡

我が家流フルサイズの選び方

だいぶご無沙汰してしまいました。みなさまお元気でいらっしゃいますでしょうか。
最近はTwitterでつぶやくことのほうが多く、ブログを使用しなくなってしまっていました。
ただ今回は長文になりそうなのと、蓄積知になりうる内容になりそうだと思ったため、ブログで記事にしたほうがよいだろうと筆をとった次第です。

きっかけは、以下のご質問をいただいたから。



さて、どうお答えしたら納得くださるでしょう。私のありのままの体験を書いて、あとは個人でご判断いただくのが良さそうかな? ということでつらつらととりとめも無く書いていきます。皆さんのお役に少しでも立てたら幸いです。



3/4サイズからフルサイズに移行する。それは大人のヴァイオリンになるということ。世界中のヴァイオリニストと同じラインに立つということ。場合によっては当分のあいだ変わること無くお付き合いすることになるヴァイオリンを探すということ。

ですからフルサイズ選びはとても慎重になります。諸先生方にお会いする都度、こんな質問をしてみたんですが……。



正解は無いし好みもあるしで、どう探したら良いのかは本当に千差万別。なのでどういった選び方をしてもいいと思うのです。選ぶからには納得した1丁と出会って欲しいです。そこに正しい道はないのでたくさん弾くしか手段は無いと思います。

ただひとつ、これだけははっきり言えることがあります。

今から選ぼうとしているあなたはきっと奏者です。だから意見を聞くなら奏者が一番。もちろんディーラーさんや職人さんから貴重な話をうかがえることもありますが、価値より歴史より音!!! というならぜひ奏者の意見を聞いて下さい。今師事している師匠の(ホールで演奏したときの)音はお好きですか? でしたら絶対に師匠のご意見を聞いてください。師匠も人間ですから、相談無く「楽器、買ってきちゃいました。どうでしょうか」と楽器を見せられても「(買ってから相談されても)……へえ、気に入ったならいいんじゃないですか(くらいしか言えないじゃない)」となります。きっとなります。ちなみに“ホールで演奏したときの”と強調したことには意味があります。それは追い追い。

それと私のようなド素人は楽器に付随する歴史やら職人技やらに興味がいきますが、楽器に必要なのは「各弦の鳴りの適切なバランス」と「状態が健康であること」で、そこから先はほとんど値段とともに付加価値がついていくみたいなものです。各弦のバランスが悪かったり状態が不健康だったりすると購入後に大変苦労します。ウルフ音がする、響きが変、調弦しづらい、とある弦だけやけに鳴る/鳴らない、指板が押さえにくい、などなど、あらゆる角度からよくよく確認するといいでしょう。可能なら1週間くらい借りて弾き倒すことをおすすめします。また、これは購入して知ったのですが、売ったあとにその楽器に責任を持ってくれるところかどうかはとても大事です。モダンといえども数十年は昔に作られた木の製品。多少のトラブルは付きものですし、自分とフィットしない部分がきっと出てきます。そのときに相談に乗ってくれて即座にストレス無く対応してくれるかどうか。もちろん慣れるまで無償でやってくれるかどうかも大事。その後のアフターケアが充実しているところとお付き合いするのが何よりです。


ここまでは自信をもってアドバイスできること。ですが、ここから先はあくまでも今回のフルサイズ選びで体験した「もしかしたら私たちだけかもしれないポイント」になります。参考になるかどうかは状況次第なので、物語として読んでいただけると幸いです。


■弦はいくつも試してね
弦で音、変わります。呆れるくらい変わります。ですから「弦といえばDOMINANT」「いやいやソリストエヴァでしょ」と頭から決めてかからないほうがいいと思います。「ソリストなんだから弦の張りは強いほうがいい」というのもある意味正しいとは思いますが、あまり強すぎると楽器の響きを殺します。おすすめは音色をたくさん生み出せる弦です。本体の特性によってその弦は変わりますから、予算の許す限り試してみると新しい発見があると思います。そのときは、弦の張力を表す「kg」と太さを表す「lbs」のふたつの数字を頼りにしてみると、基準がわかりやすいかもしれませんよ。


■近鳴り、遠鳴りは、ある
「これ、近鳴りする楽器だね」という言葉、なんとなく迷信っぽく感じていませんか。私は感じていました。ですが、とある職人さんの元で2丁の楽器を弾き比べたとき、あまりの違いに愕然としました。これは弾いている本人には判りづらいかもしれません。特にフルサイズに持ち替えるお子さんに判断しろというのは本当に難しい。ぜひホールでの演奏で良い音を鳴らせる奏者にご相談ください。大きなホールのコンサートよりもサロンコンサートのほうが需要があった時代と国の楽器は、近鳴りの楽器が多い気がします。また、裏板の薄い楽器は近鳴りの傾向にあるという話を聞きました。これは体感的なものなので鵜呑みにしないでください。


■肩当てで響きが変わる
肩当てが楽器の音を殺す。あります。これ本当に。ただ単に高いだけじゃないんです。だから肩当てもいくつも試して弾いてみてください。だいぶ違いますよ。


■弓で音が変わる
「何を当たり前のことを」とおっしゃるかたは耳がいい! 肥えてらっしゃると思います。私は最初まったくわかりませんでした。約2ヶ月、長女といっしょに楽器商巡りをした成果として、いろんな音の違いに気づくことが出来るようになりました。弓で音、変わりますよ。ただし「いい弓を買う」のではなく「ヴァイオリンに合ったいい弓を買う」といいと教わりました。相性が有るそうです。


■嫌な予感はたいてい当たる
楽器をもったときの印象。G線の弾きづらさ。なんとなく形が嫌……。その予感、たいてい当たります。少しでも「うぇっ……」と思ったら絶対やめましょう。少なくとも我が家は人の意見に惑わされずにこの勘に従いました。その結果、周囲全員が納得する出会いに恵まれました。長女が尊敬してやまないお師匠が「うん、これいいんじゃない」と初めておっしゃった楽器。長女本人も気に入っていたので大喜びでした。他の楽器は構えて数秒で「ピンとこない。ほかにある?」と突き返されましたから……。


■「いい出会いは一瞬」は常套句
「買うと言わなかったらこの楽器は売れてしまう」と思ってしまう心理に陥りやすいのがフルサイズ選びの哀しい事実。でも現実は、そんな簡単に売れません。もし売れてしまったとしたら「ああ、自分が選んだ楽器はほかの人もいいと思うくらい優れた楽器だったんだ。自分の判断すごい」と自分を褒めましょう。「次に見たいと言っている人がいるので、いついつまでにお返事を」は商売人の常套句です。これはヴァイオリンの世界に限りません。だってそうでしょう?「すぐ売れちゃうかもしれない楽器」ならわざわざそんな注意喚起をしなくてもいいじゃないですか。どっちにしろ売れるんだから売り手は損しないんですし。


■最初の数回は判断を保留する
いきなり弾いて「うーん、なんか違う」と思っても、他の楽器をたくさん弾いたあとに再度弾くと、まったく違う良い点に気づくはずです。我が家はまさにそれ。最初はピンとこなかったのですが、10丁弾いたくらいから「あの楽器、もう一度試してみようか」という気持ちになり、再度もう一巡しました。すると……「あれ、この楽器、こんなにいい音だったっけ?」となったのです。そしてめでたくその楽器を手にすることになりました。


こんなところでしょうか。何か役に立ちましたか?
再度念を押しておきますが、あくまでも我が家の楽器選びの総括です。個々に考え方やとらえ方があると思いますので、けっして鵜呑みにしないでください。


あと、申し訳ないのですが、長女の相棒の国籍と年代をここで公開することはご容赦ください。


ではまた。