人生を劇場にしない

ヴァイオリン経験皆無の親が、迷走しながら長女を導く軌跡

TLPエピローグその2

娘たちの楽器道は、妻と私の両親の多大な支えの上に成り立っています。ですので両家への説明もとても大切なネゴシエーション。彼らの理解と応援なくして、娘たちはここまでがんばれなかったと思います。

 

それぞれに、食事をしながら、電話で、今までお会いした三人の先生について話をし、長女の可能性についても話をし、今後も変わらぬ応援をよろしくお願いします、とお話してきたわけです。

 

義母はとても理解してくださり、妻との電話で「親が何か足りないと思うタイミングって、だいたい正しいのよ。やっちゃいなさい」と後押ししてくださいました。

 

義父はあまり子どもの習い事に積極的ではないのですが、仕事に行く前に毎日、私がまとめた娘たちの演奏記録をひととおり聴いてから出かけるとか。「私のとき(ピアノ)はこんなにも聴いてくれなかった」と妻が半ばブーブー言っておりますが、孫の力はすごいねってことでいつも話を濁しております。

 

泊まりでお邪魔するときは必ず楽器を持っていくのですが、娘たちのヴァイオリンの演奏は聴いてくれますし、何よりも全力で味方をしてくれるので本当にありがたい。

 

一方、私の父母はとても過干渉で、ちょっとでも連絡を怠ると「あの件はどうなった」とこちらが仕事中でもかまわずに電話をかけてくるので、先回りしてしつこいくらいに電話していました。

 

全面的に応援してくれていることは妻の実家と変わりはないのですが、父はなんというか「天賦の才」とか「神童」という言葉に弱い世代の人で、どちらかというと結果主義。だからこんな質問をしてきました。

 

「今の先生がなかなか次のレベルのレッスンに移行しないのは、長女ちゃんの才能をその程度と見限っている可能性は無いのか。だからあえて深みにハメないように誘導しているんじゃないのか」

 

さすがに、一言いいたくなりました。多少語気も強くなった気がします。

 

「だとしたらなおさら、今の先生にはお預けできない。天賦の才で左右されるのはもっと次元が上の話。そこに行き着く段階にも立っていないのに、たったの七歳で才能を見限られてたまるか」

 

私が小学生のころ、「天才」という言葉がはやりました。たぶんビートたけしの番組がきっかけだとは思うのですが、成績がいいだけで「天才」。何か特技があるだけで「天才」。使う側はそこまで意識していないのでしょうが、使われる側は変なプレッシャーを感じるものです。「ただ努力しているだけ」なのに、生まれついての才能があることを揶揄するような口調で言われると、子どもながらに意味も無く罪悪感をいだいてしまったものです。

 

私たち夫婦は子どもたちに「きみには才能がある」という言い方はしません。もしかしたらたまに言っているかもしれませんが、文脈は違うはずです。主によく言うのは「よくがんばってる」という言葉。

 

がんばってるね。

がんばってるから、上手になったんだよ。

上手いから偉いんじゃないよ。がんばってるのが偉いんだよ。

がんばってるのは知ってるよ。ちゃんと見てるよ。

 

「姉妹は毎日本当によくがんばってるよ。そのがんばりを効率よく伸ばしてくれるからお金を払ってでも教えを乞うのが先生なんだと思う。今のお師匠とは少し理念がズレてきたから、より効率の良い先生を探そうってことで今回のように各所を巡ったんだよ」

 

そう説明することで父は納得していました。ただ、「ということは、お前たち夫婦も腹をくくったんだな」と念を押すことだけは忘れませんでした。「そうだね。メンタルも含めてよく観察しながら、二人三脚していくつもり」と答えると、あとは「わかった、全面的に協力する」とのみ言ってくれました。

 

母はもう少しお気軽で、「でしょう? 私も話を聞いている限りだと一番目の先生がいいと思ったのよ! 長女ちゃん、男の先生でも嫌がらないし、やっぱりね、いい音で弾いてくれるっていうのは何よりもすばらしいからね」はい、そうですね。まったくそのとおりです。

 

両家とも、二女のメンタルをとにかく心配してくれていました。今のところ親の目から見て大丈夫だとは思うのですが、もしかしたら姉ばかり注目されることに鬱屈を抱えているかもしれないので、今後も注意深く見守っていきたいと思います。今朝も「二女ちゃんは将来なにになりたいの?」と聞くと

 

「うーん、ヴァイオリンもー、ピアノもー、バレエもー、上手な人」

 

それスーパーウーマンですやん。趣味として「上手な人」になら成れそうだけど、全部一流ってどんだけ贅沢なんですか。きっと、全部好きなのは本当なんでしょうね。

 

さて、次回TLP関連最終話。現お師匠へのご報告の回です。

 

ではまた。




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